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2016.08.29 (Mon)

泉光院の足跡 176 立山で事件発生

…扨又今日立山登山にて恢異あり、禪定を仕舞ひ三の越迄下山の處、吾れ思ふ様、當山は日本第一の高山又名山にて、難所行場等も多しと聞きし處大いに相違し、大峯には遙かに劣りたる山也と心中に吾山を貴み慢じたれば、何となく吾を後ろより突倒したる様に顛び(ころび)たり。其時金剛杖の錫杖を微塵に打折りたり。故に心中に怒りをなし、何者の仕業なるぞ、不届きの仕方吾れに障りを作(な)す、又も障りたらば其分には差置かずと心中に言ひし處、足下に廻り五尺計り、長さ六尺計りの白雲脚を摩れ横切れに通る、十五六間も行くかと見れば忽ち消へたり。又其夜室戸へ籠り不思議の夢を見る、是れは他言せず。錫杖を打折りし迄は平四郎もよく知れりと云ふ。室戸の内に大雪振り込み寒し々々。
立山雄山神社峰本社
雄山頂上のお宮に参詣してから下る途中、ちょっとした事件があった。
立山は日本一の高山であり、且つ名山だというけれども、なあに大したことはないじゃないか、俺が修行をした熊野の大峯に較べればこんな山なんか、……、と慢心したとたん転んでしまった。

そうして金剛杖が折れてしまった。誰だオレに悪さをする奴は!
気がつくと白雲が少しばかり足下にたなびくばかり。
立山一の越浄土山
そうです。登山だけでの事ではありません。日常茶飯、失敗は自分の心の緩みが元なんです。他人の所為ではありません。
右の写真は、左端が雄山で、右が浄土山。その間が一の越という場所。
事件が発生したのは雄山から一の越へ下る途中、多分三の越というあたり、写真でも白雲がたなびいているあたりでしょう。ほんのちょっとだけだが傾斜が緩やかになっている。そんな所で転んだのでしょう。錫杖が折れただけで、たいした怪我もしなくてよかった。下手に足を滑らすと大怪我するところだった。

ワタクシも立山・剱岳の登山の時ちょっと失敗した事があるのです。そのことをちょっとだけ書いておきましょう。
No.174 立山登山 の項でワタクシも立山へ登った事を書いておきましたが、この時は職場の仲間でテントを買って、その初めてのお披露目登山でした。毎月の月給の中から\100ずつ積み立てて、帆布製・木柱のウインパー型テントを買ったのです。いまから思うと重くて不便なテントだったのだが、それでも嬉しくてそれを担いで山へ登るのが楽しみでした。剣岳剣沢テント場

右が剱沢雪渓上部のテント場に設営したワタクシ達のテント。
向こうに見えるのが剱岳。
左手前の小さいピークが「一服剱」で、その次が「前剱」、一番右の高いのが剱岳本峰。
このテント場に5日程滞在して剱岳のあちこちを登ったりしていたのでした。
この時代は、山登りをする人も増えたといってもまだまだ少なくて、たまにすれ違う人がいると自然に挨拶も出来たのでした。食糧事情もあまりよくなくて、お米は僅かしか持って行けなくてジャガイモやキュウリの方が多かったのです。
剣岳平蔵谷上部
最初はいちばん易しい尾根のルートで登りました。
一服剱から前剱、平蔵谷雪渓の頭(左の写真、直ぐ下の岩にシガミツイテいるのがワタクシ)を通りすぎて、カニの横這い、というのを通って剱岳の頂上へと行きます。剣岳カニノハサミ
頂上が近くなるとまわりはいよいよ険しくなってきます。
右の写真の岩は「カニノハサミ」という名前の付いている岩。早月尾根の上部にある岩です。こんな険しい所ではめったに事故は発生しません。
一歩、一歩、また一歩、目と頭と手と足と、つまり全身をフルに働かせているのです。自分の命は自分で守れ!です。


剣岳頂上大坪Y森本
そうして頂上へ辿り着きます。剱岳の頂上です。
右下に見えている川は早月川。日本海へ注いでいます。写っているのは左から大坪・ヨリック・森本の各氏。
剣岳長次郎雪渓上部八峰


下りは長い長次郎雪渓をグリセードで滑り降りて、剱沢雪渓の下の方へと行きます。
右の写真は長次郎雪渓の上部、向こうの岩峰群は八ッ峰で、岩登りの練習場。
長次郎雪渓は平蔵雪渓にくらべて緩いのですがそれでも上の方はかなり急傾斜です。立山の内藏助沢雪渓で練習をしておいたので快適に滑り降りる事が出来ました。そしてもう少しで剱沢との出会い、平坦な場所に出る所で、やっぱり気の緩みが出たのか、転んだ。そして眼鏡を飛ばしてしまって、はずれたレンズの一枚を捜すのに苦労をした。雪の上でガラスのレンズを探すのは至難の業でした。
泉光院が転んだのを笑えないヨリックの失敗でした。
剣岳剣沢上部
左の写真。剱沢上部です。
きれいな花の咲いている斜面を少し下がった所にワタクシ達のテント場があったのでした。
茹でたジャガイモとキュウリの味噌汁で一週間も山の中で暮らせたのもやはり若さの故でしょう。

ワタクシの職場仲間、と書きましたが、この時の3人はいずれも金沢大学工学部電気工学科の職員で、一応は国家公務員でしたが、夏休みだと休暇も取りやすくてこういう楽しい山行きを堪能できたのでした。

七日 朝霧天、飯後晴る。室戸立、辰の上刻。又雪の上を下る。雪未だ一丈計りも有ると見ゆ、道に釣鐘堂、廻り石など諸所行場もある様なれども雪にて一切知れず。案内の者云ふ様、各々方は道の楽をせし也と。故は谷も岡も行場の難所も一切知れず、雪の上を通りたれば道甚だよかりし也と。晝過ぎ岩倉南泉坊へ歸る。當年初禪定の納經印出る。
立山みくりが池から雄山

下山の途中転んで錫杖を折る、という事故がありましたが大したこともなく下山の途につきました。
ずっと雪の上を歩いて下山できたのでとても楽でした。ただスタスタ歩いていればいいのだから。

右は室堂近くの、みくりヶ池。泉光院が歩いた時はもっとたくさん雪があったのだろう。もと来た道をそのまま戻って岩峅寺の南泉坊に着き、本年最初の登山者として納經印。をもらいました

立山曼荼羅のいくつかをのせておきましょう。
立山曼荼羅来迎寺本

左にのせた曼荼羅はたくさんある立山曼荼羅の中でもとても見事な「来迎寺本」です。

一番上には左から、剱岳、立山の別山・大汝・雄山の三山、そして浄土山が描かれているようです。左に月輪、右に日輪。下の方左から布橋灌頂会、登山ルートの紹介や、左上の地獄の光景、右上の方に極樂への招待など、丁寧に描かれているようです。
立山曼荼羅布橋
左は布橋灌頂の部分。
芦峅寺と岩峅寺の衆徒は立山信仰の宣伝に努めて全国に出かけたのでした。回國に出かけるのは秋の末からで、担当の村ではお寺とか庄屋さんの家などを会場として村人を集め、このような曼荼羅を掛けて、これを絵解きしながら説教をし、護符や、立山の薬草から製した「霊薬」を頒布しました。その代金は、翌年再び回國をした時に徴収するという、「先用後利」のこの頒布の仕方は後に富山の売薬業者も利用したやり方でした。
このようにして布橋灌頂に参加する女性信者を全国から募集して、盛大を極めたのだそうです。参加する女性たちは全国から長い旅路を経て越中國に入り、「立山道」の道標に導かれて芦峅寺の宿坊に入ります。参加費は、言い伝えによれば先頭が七十五両、現在の価格では400万円にも相当するでしょうか。列の後ろになるに従って60両、50両、…5両とだんだん少なくはなるのですが、旅費と合わせるとかなりの出費となります。それでも布橋灌頂に参加する女性もいたのですね。
立山芦峅寺閻魔堂御札

ワタクシも(女性ではないけれども)閻魔堂から布橋を渡って姥堂まで歩いた時の写真はNo.173芦峅寺 の項にに少しばかり載せておきました。
ちょっと書き残したことを入れておきます。

姥堂に祀ってある姥尊、通称オンバサマは、天地のはじめ、芦峅寺に天下った万物の母神で、その寂後は冥界を主宰するようになった神で、本地は大日如來です。
立山芦峅寺おんばさま
姥堂の本尊は姥三尊。その左右に日本六十六州になぞらえて66体の姥尊が安置されている。縄文土偶を思わせる醜怪な裸体木像で、春の初めに白衣に着せ替える儀式が行われます。昔は62歳の老女(いまの62歳はお若いですがね)が1月6日から織り始めて2月5日までに織り上げ、2月9日からお召し替えをしたのだといいますが、新暦となったいまは2月8日から紡ぎ始めて一ヶ月程で織り上げ、3月13日にオンバサマに着せ替えるのだそうです。

布橋灌頂に参加する信者の女性たちは白衣の死装束で、まず閻魔堂で閻魔大王から裁きを受け、目隠しをされて、僧に案内されて鬱蒼と茂る晝なお暗い巨木の茂る中を歩きます。道にも、朱塗りの布橋の上にも白布が敷かれていて、その布を踏んで行くのです。心がけの悪い人は橋から下に転落して龍に吞まれる、とか、鬼に捕まる、といって恐れられます。橋を渡ると右側に入母屋造りの姥堂が建っています。来迎僧に導かれて姥堂に入り、暗闇の堂内にすし詰めになって読経念佛を勤めているうちにやがて正面の扉が開かれると暗黒から光明世界に転じ、真正面に立山・浄土山・大日山の聖なる山々が拝せられます。信女たちはここで恍惚として宗教的感動を味わうのです。闇から光へ、再生の儀式です。もう一度写真を再掲しておきましょう。
立山芦峅寺曼荼羅閻魔堂再立山芦峅寺曼荼羅布橋再立山芦峅寺曼荼羅姥堂再


閻魔堂から出る場面    布橋             姥堂



立山芦峅寺目隠しの女再立山芦峅寺布橋を渡る女再

目隠し                      布橋を渡る          

立山芦峅寺布橋此岸立山芦峅寺布橋彼岸再

布橋・此岸                 布橋彼岸

立山芦峅寺遥望館展望再

遙望館からの展望
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