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2017.05.30 (Tue)

泉光院の足跡 234 石廊崎

六月一日 晴天。湊浦立、辰の刻。手石村と云ふに行く、手石の彌陀納經所あり、此下より船に乘りて五丁計りに洞穴あり、船を入るゝこと五間計り、其奥四間計りに水際より五尺計り上に高さ一尺計りの彌陀のごときが黄金色に見ゆ、右脇に二體ありて少し低し、必ず阿彌陀とも分り難し、洞の内に大波打込む故に船動きしかと知れず、然し乍ら洞の奥上に少しの窓穴ありて明り入る様也。佛と云ふは自然石と見ゆ、黄金色に見ゆるは不思議也。穴南向、汐干に入る。滿汐には不參、船賃七十文。…
弓ヶ浜
賀茂郡南伊豆町手石町の海岸、弓ヶ浜です。
一番左端の山の向こう側あたりの海蝕洞窟の中に彌陀の岩屋というのがあって、干潮時に船を洞中に乗り入れると前面の岩壁に金色に輝く三体の佛像のようなものが現れるので信仰されました。今の地図にも弓ヶ浜の西に名所として「手石の彌陀の岩屋」として記載されていますが、いまはこんな所へ行く人は居ないだろうな。

…夫より石室(いろう)の權現と云ふに詣納經す。…
石廊崎

右が伊豆半島南端の石廊崎風景。
石室権現はいまは石室神社という名前で、左の石廊崎灯台のすぐ下、岬の崖の下にへばりつくように建っている。




石廊崎燈台

左が石廊崎燈台。
そして右が石室権現。石室神社

泉光院はこのように書いている。
…石山の鼻先に小社鎮座、海際より八九間計り上也。本尊神變菩薩並びに恵比寿大黒、當所は豆州南の果て也。日も西山に沈む故に、當町善藏と云ふに宿す。今晩平四郎は別宅。

ここから先しばらく歩くのに苦労しています。石廊崎から南伊豆町の下賀茂温泉のあたりまで出るのに細い山道を通るのです。何しろ天城越えなんです。日付を省略して歩いた場所だけを書いておきましょう。

…石井村立、辰の刻。蛇石村と云ふに行きたる處、晝時過也、然る處、此所より岩科郷と云ふには一里半の峠ありと云ふ、然れば當村へ一宿し明日早々越ゆべしとて一宿求むれども此邊三十軒計りの處宿一軒もなし、據なく夫より峠を越へかゝる、心はせく、道は惡し、半道計りにて道に迷ひ、漸く暮時岩科郷と云ふに下る。庵室あり一宿す。

岩科郷は西伊豆海岸松崎から少し山中に入った所です。蛇石村から蛇石峠を越えるのは今でも細い道しかないのです。道に迷ってしまった。
岩科学校

左は明治13年に建てられた「岩科学校」という小学校で、なまこ壁を生かした白亜の寺社風建築にバルコニーをつけた和洋折衷の、伊豆で最古の小学校。國重要文化財指定です。

右は松崎の町を特徴づけるなまこ壁の家並み。松崎海鼠壁の家

松崎という町は伊豆の長八という左官が居た事で有名で、鏝だけを使って漆喰で絵を描く。その絵が実に素晴らしい。
入江長八というこの左官は、泉光院がここへ来た頃に生まれて、江戸に修行に出て技術を磨く傍ら、狩野派の絵を学んで、これを左官の技に応用しようと思いついて、鏝で盛り上げた漆喰に着色するという「彩色鏝絵」という技法を完成させたのでした。
長八八方睨みの龍
左は淨感寺本堂の天井に描かれた「八方睨みの龍」。
長八美術館というのもあって、そこには長八の傑作鏝絵を見ることが出来る。入場すると虫眼鏡が渡されて、鏝絵の細部を虫眼鏡で見て、その技術に驚嘆する! ということになっている。

泉光院はここから富貴野山寶藏院という弘法大師ゆかりの寺を訪ねて、そこから天城峠を越えようと思います。

八日 曇天。三島村立、辰の刻。富貴山と云ふに上り、天城山と云ふを越へ、本道に出んと思ひ、櫻田村と云ふに行く。雨着山越への様子を聞く處、六里の峠あり甚だ難所なりと云ふ。右に付思案の所、主人市藏と云ふ者申す様、今日富貴山へ登り此處迄下り我内へ一宿し、猫越へと云ふを越へ玉へ、此峠は上下三里也と云ふ、因て右に定め笈頼み置き直ちに富貴山へ登る。麓より一里半。禪寺一ヶ寺。…

天城越えの道を聞いてみたら、ここからだと六里もあって難所だよ、と言う。そう教えてくれた市藏さんは、ここから寶藏院へお詣りをして、戻って私の家で泊まって、明日猫越峠へ行きなさい、それだと上下三里だよ、と教えてくれたので、おっしゃる通りに致しましょうと、すぐ寶藏院へ行くことにした。福貴野山宝蔵院登り口
右が寶藏院への登り口。
今は櫻田村から狭い道だけれども普通車くらいまでなら車で上がれる。
福貴野山宝蔵院地蔵群
西伊豆町と松崎町の境にある550mほどの富貴野山という山の頂上あたりにこのお寺があって、正しくは富貴野山宝蔵院。登ると130体以上もある石佛が参道をずっと背中合わせになって並んでいます。
山門も本堂も、昭和24年頃の台風で倒壊してしまって、いまは礎石だけが残っていて開山堂が一棟、この石佛群の向こうにあります。

…當山は弘法大師開基の山にて、大師の笈、杖等寶物種々あり、笈は修験笈也、笈佛は六地藏と云へる秘佛にて、今一體は當堂の中尊也。當寺参詣の者へは何れも掛合出る也。夕方歸り市藏宅へ宿す。三度振舞あり。

泉光院がここへ行った時には…參詣の者へは掛合(軽食のようなもの)…が出たらしいのだが、今は無住のお寺で本尊もどこかの個人宅へ格納されているらしいし、納經印が欲しい人は、これも松崎町側では吉長○○氏宅で、西伊豆町側では梅田○○氏宅で、印刷されて押印済みのものを買うことが出来るそうです。
だからこのコースは参詣のためではなくてハイキングコースだと思った方がいいようだ。
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