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2017.10.19 (Thu)

泉光院の足跡 261 熱田明神

廿七日 晴天。大西風。大濱驛立、辰の刻。尾州の内鳴海驛へ夕方着き宿す。

大濱から鳴海までの間に池鯉鮒の駅があります。
今は知立と書いているのだが、昔は池鯉鮒、雉鯉鮒、千鯉鮒などいろいろ書いた。地名の由来はこの場所に神池があり、鮒や鯉が生息していたからだという。
来迎寺一里塚
八橋のお寺への曲がり角あたりに来迎寺一里塚(右)が左手に見える。その先に常設の馬市があって、「毎月四月廿五日より始て五月五日に終わる。驛の東の野に駒を繋ぐ事四、五百にも逮(およべ)り。馬口勞(ばくろう)、牧養(うまかい)集りて馬の価を極るを談合松といふ。」

広重池鯉鮒首夏馬市

廣重「東海道五十三次之内 池鯉鮒 首夏馬市」
馬市が開かれると4~500頭の馬が甲信越地方から集められて競りにかけられた。
この絵に見える松の木、これが「談合松」だろうか。
知立馬市の碑
知立の、この馬市の立ったあたりに、廣重の馬市の画を入れた案内看板が立ててあって、その向こうに馬の銅像がある。
馬市がたつと、馬を売買する人、それを見物する人、またそのような人を相手にした、いかさま賭博師や大道芸人、藝者、といった人たちも大勢集まってきてたいそうな賑わいを見せたと言います。
馬は高価な商品です。それがたくさん集まるのですから取り扱う金額も大きなものだったでしょう。中には大金を手にはしてみたものの、バクチや女に手を出してスッテンテンになった人も居るに違いない。

池鯉鮒の宿を出て馬市の野を過ぎると境川という小さい川を渡って三河國から尾張國へ入ります。名鉄名古屋本線に沿ってしばらく行くと桶狭間古戦場跡への入口が左手にありまして、そのすぐ向こうが有松の町並。
広重鳴海名物有松絞

廣重「東海道五十三次之内 鳴海 名物有松絞」
有松街並現在

こちらは今の有松の町並。

慶長年間、17世紀初頭に九州の豊後絞りを手本にして始められた「有松絞り」の産地です。
一粒一粒、糸をくくってゆく作業はいまでも女の人の手仕事に支えられて作られます。総鹿の子の振袖ともなると絞りの数は20万個にも及ぶといいます。

有松絞反物有松絞絞る人

廣重の絵に描かれている建物と同じような建物の中で、いまも同じような工程で作られているのだと思います。
千本格子と漆喰塗籠(しっくいぬりごめ)の問屋や、絞り倉、藍倉がそのまま残っている町です。有松絞会館というのがあって、そこで実演や展示をしています。
泉光院にとっては何の感興もわかなかったと見えて素通りしました。
廿八日 晴天。鳴海驛立、寅の刻。熱田明神に詣納經。諸人知る處なれば略す。本社南向、境内五丁四方計り、社務御師宅多し。…
熱田神宮拝殿

草薙剣を御神体として祀るのが熱田の宮。
ヤマトタケルが東の方の「まつろわぬ」者共を征伐する時に、伊勢神宮に参拝して倭姫命から天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を授かり、これで敵の火攻めを防いだ、というので草薙剣(くさなぎのつるぎ)と名付け、この時の火攻めに逢って草をなぎ倒した場所が静岡市日本平の「草薙」なのでした。
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廣重の「東海道五十三次之内 宮 熱田神事」
は、毎年五月五日に熱田神宮で行われていた神事、「馬の塔」を描いたものです。
広重宮熱田神事東海道五十三次

馬の塔、発音する時はなまって「おまんと」というのですが、この神事は近隣の村から熱田神宮に馬を献上する行事で、本馬と俄馬(にわかうま)とがあって、廣重の画は俄馬の方を描いています。

本馬は、いわば正式な手続きで献上する馬です。村の名前を書いた札や御幣などで飾った馬に、長い綱をつけて、着飾った大人や子供が行列を作って奉納します。
ところが俄馬の方は、裸馬にコモのような物を巻き付けて(上の絵でもわかりますね)、趣向を凝らした衣装を着けた男共が跡綱というのを引っ張って走る。
手前の茶色の馬を引っ張っているのは有松絞りの袢纏を着た男たち、奥の白い馬を引っ張っているのは紺染めの袢纏を着た男たち。町の女も通りがかりの旅人たちもこの珍しい行事に目を見張っている。本馬の行列よりもこの俄馬の方が荒々しくって見応えがあるし、どこのお祭でもそうなのだが、血気盛んな荒男がこの日ばかりは有り余るエネルギーを爆発させる、というのが民間の「お祭」でもあるのです。
フンドシ一貫で、御神輿を振り回したり、火のついた松明を抱えて走り回ったり、一番先に御札を取るために雪の積もっている石段を駆け上がったり、大凧の綱を力一杯引っ張って空高く上げてみたり、・・・・そうして女たちもやはり男のそういう勇ましい姿を見るのが楽しみでもあるのです。

東海道は宮宿から船で三重県の桑名宿まで「七里の渡し」といって海上を渡るのが正式ルートでした。海が嫌いは人は佐屋廻りという内陸路もありました。こちらの方は陸上を六里歩いて、川船で三里下って桑名に着きます。たくさん歩かなくっちゃなりません。海上ルートの方は大きな船に乗って居眠りをしていてもちゃんと着きます。

海上ルートの方をちょっとだけ書いておきましょう。
宮宿は熱田の宮の門前町であると同時に桑名へ行く七里の渡しの乘船場でもありました。熱田神宮の正面で左折すると熱田湊の常夜灯と呼ばれる「高櫓の神燈」と「時の鐘」が残っています。

常夜灯のような石造りの建造物を建てるときは道中奉行の許可が必要で、また灯油と、その点滅の仕事も建築主の負担になります。七里の渡常夜灯と鐘楼

この常夜灯は寛永二年(1625)、尾張藩付家老で犬山城主でもあった成瀬正虎が建てて、永代灯明料として田地五十畝(約5000㎡)を聖徳寺に寄進して管理を依頼したのです。すると聖徳寺ではその田地から上がる収入で油を買って、点灯・消灯を仕事として続けるわけです。もちろん寺僧がやってもいいし、人を雇ってもいいのです。
この常夜灯は寛政三年(1791)、火災に遭ったので正虎の子孫の成瀬正典によって再建されました。上の写真の常夜灯はその時のものです。
船便は、朝の一番船は明け七つ(午前4時頃)に艫綱を解きました。
『東海道名所記』万治元年(1658)の項には、「そのかみは、何時(なんとき)にても船を出しけれ共ちかき頃、由井正雪が事よりこのかた、晝の七つ過ぬれば船を出さず」と書いてあって、慶安四年(1651)以降、午後4時を過ぎると船を出さなくなった。
(由比正雪はという人は、三代将軍家光の死後、江戸幕府を倒そうとしたのだが、計画《慶安の乱》が露見して、慶安四年、駿府で自殺したのでした)
そして翌朝まで、この常夜灯を点灯して、まだ船を出してはいけない事を明示する役割をさせたのでした。その横にある時の鐘は、船出や時刻を告げた鐘で、戦災で鐘楼は失われたのだが、鐘は残ってこのように鐘楼も新しく造られました。

熱田湊の図
左が熱田湊の圖。真ん中に鳥居が見える。これは遙かこの方向にお伊勢さんがあるのです。ここから船に乗って伊勢神宮へお詣りに出かけたのでした。右の写真はそのあたりの現況。七里の渡現在の風景

昔はここからすぐ伊勢湾になっていたのだが、いまはずっと向こうまで陸地になってしまって、堀川の岸がわずかに湊だったことをうかがわせている。
船に乗ってみましょう。
岸壁を離れた船は、帆を上げて舳先を桑名に向けます。晴れていて波が静かなら景色は素晴らしい。
名古屋城天守閣鯱
海から見る熱田の宮のみどり濃い森は美しく、濃尾平野は広々と墨絵のように霞んで見える。熱田の宮の向こうに聳えているのは名古屋城。その屋根に光るのは金の鯱。大判を1940枚使って作った。
いまのお金にすれば6~7億円にもあたるでしょうか。
目を転ずれば右遠くに鈴鹿の山々が波打つように連なっているのが望め、左は大海原へと続く伊勢湾が目の届く限り続いている。お客は船の胴の間に寝そべったり酒を飲んだり戯れ言に興じているうちに桑名へ着くのでした。

ところで船賃ですが、『東海道中膝栗毛』には、「此わたし船、七里のかいじやう(海上)、一人まえ四十五文ズゞ、其外駄荷のりものみなそれぞれにちんせんをはらひ、ふねにのる」のでした。
蕎麦一杯16文で勘定すれば一人前\1000かもう少し高いほどでしょうか。荷物は一荷54文、駕籠一挺なら167文払う。貸切にする事もできて、40人乗りの船で二貫二百五十四文、という具合でした。そして海上七里の所要時間は、これは天候や風波の情況によっていろいろあったようだが、太田南畝の『改元紀行』では2時間、某大名の日記では4時間。なかには7時間かかったという手紙もあるそうです。

泉光院はいずれ桑名から伊勢へ行くのですが、その前にイワさんから頼まれた物を美濃國の山中まで届けに行かなくちゃならない。それに西国三十三ヶ寺や國分寺などどうしてもお詣りしたい所もあるし、だから熱田の宮で…詣納經…してから名古屋の城下町へと向かいました。
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