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2018.05.09 (Wed)

泉光院の足跡 305 室生寺

…夫より室生寺と云ふに詣づ。大師一の弟子眞雅僧正の寺也。女人の高野山と云ふ所也。初瀬山より五里山中也。大いなる峠を越へ室生山村と云ふに行く。夜に入る故に市太郎と云ふに宿す。
二日 晴天。當村托鉢の所三合施行の家あり、札遣はしたる所女房臨産月にて、奥州鹽釜護符あるまじくやと申さるゝに付一包遣はす。今日は滯在にて奥の院並に龍穴一見せまじくやと主人申すに付別業へ一宿し室生山殘らず詣づ、本堂南向、伽藍多し、奥の院寺より山中八丁登る、堂一宇南向、是れ大師堂也。脇に自然石の五百羅漢あり、石の五重の塔を立てたる下に大師護摩の岩屋あり。そより下りて川上五丁に善女龍王の宮あり。夫より五丁山中へ登り龍穴と云ふがあり、谷川の向ふの岩穴なれば川越し故に行かれず、岸の此方より拝す。又三丁計り上に天照大神御出現石とて大石二つあり、其間に穴あり。夫より門前に歸り宿す。主人源十郎と云ふは寺の代官役、村の庄屋を勤る人也。此の人により當山の靈寶籾塔と云ふを見る、高さ二寸三分計りの木作の寶篋印塔也。塔の内籾を一粒宛入れてあり、加持堂の天井の上にあり、何者の作とも知れず、傳手を求めて寺へ願ひ出れば金子百匹にて其籾出る由承る。右様の事共にて謝禮一句す、
   籾塔の光りを増すや夏の月

ワタクシは都合3回、室生寺に行きました。
最初は N0.295 法隆寺・西院伽藍 の項で書いたように、ハタチになった冬、勤め先の冬休み全部を奈良・日吉館で泊まって、大晦日が法隆寺、元日が室生寺でした。二度目は桜井市の親切なタクシー運転手サンのおかげで丸一日、貸切状態で普通の人の知らないような場所まで案内して頂きました。三度目は世界遺産研究の会のツアーで、バスガイドの貞子サンの案内の通りに歩いていました。

さてその一回目。1950年代というと戦後の復興がようやく緒につき始めた頃で、観光などという言葉はどこを探しても見当たらない時代でした。
室生寺へ行くには、例えば奈良からJR桜井線、桜井駅下車。近鉄大阪線に乗り換えて室生口大野駅下車。そこからもしバスがあればバスに乗って、室生川に沿った道をさかのぼることになります。
その頃は、バスは有るには有るのだが、午前に2本、午後3本。バス停の時刻表では午前の最初が出た後で、その次が2時間待ち。これでは歩くしかありません。
室生寺の手前に大野寺の磨崖佛がありますからそれを先に見ておきましょう。
大野寺本堂
右、大野寺の本堂です。この写真は本堂前の枝垂櫻ですが、元旦なので葉も花もない冬枯れ櫻でした(2度目に行ったときは秋だったから咲いていなかった!)。
このお寺の境内から室生川の対岸岩壁にある磨崖佛を拝することが出来ます。
この磨崖佛は高さ14mの彌勒菩薩だというのだが風化していておぼろげながら佛像が彫ってあるのだな、とわかる程度です。
大野寺磨崖佛河原
左、磨崖佛。
まだ若かったから、河原へ下りて写したのでした。

大野寺磨崖佛小屋

いまだと大野寺の境内、本堂前にこの磨崖佛を見るための小屋が造ってありまして、こうなるとここから見るのが正しい!などというつまらぬ迷信が生まれます。右がその小屋から見た磨崖佛。
大野寺枝垂櫻大野寺枝垂櫻満開

3度目は春まだ早いのでやはり枝垂櫻は咲いておりませんでした。右はガイドブックから頂いた「満開の大野寺枝垂櫻」。
綺麗ですねぇ。(左と右、殆ど同じ場所からの写真のようです)


一回目の続きです。室生寺の近くへ来たのは殆ど昼頃だった。室生寺入口橋

朱塗りの橋を渡ると「別格本山女人高野室生寺」と彫った石柱が見える。
大きなお寺らしいので拝観の前に食事をしようと、この橋の手前に食事処がないか捜した。
3軒程茶屋らしいのがあるのだがいずれも戸が閉まっている。商売をしている様子は見えない。そのうちの大きそうな店に入って食事を頼んだのでしたが、「今日は休み」とつれない返事。
ワタクシもここで何かを食べておかないと夜までエサ無しの情況なので、「お正月だからお餅くらいはあるでしょう。お餅を焼いて海苔をクルッと巻いてお醤油をつけたものでもいいのですが、…」と頼んでみた。しばらく経って渋々持ってきたのは何と! かなり大きな丸餅をコンガリ焼いて、茶筒の様な缶に入った味付け海苔(4cm×8cmほどに切ってあるアレ)を持ってきて、「こんなものでいいですか?」だった。
食文化の違いです。ここは関西でした。餅と云えば丸餅です。ワタクシの脳裏にあったのは、四角に切った切り餅がポチャッとなるくらいに焼いて、お餅より少し大きめの焼き海苔を裏表に貼りつけたのを空想していたのでした。

室生寺が「女人高野」と言われるようになったのはずいぶん後の時代、江戸時代、元禄十一年(1698)のことです。中世の室生寺は奈良・興福寺の末寺で、弘法大師空海の弟子の一人(泉光院は眞雅とかいています)が入山して、真言密教のお寺としての性格が強まっていくのですが、興福寺の力が衰える江戸時代になると、将軍綱吉の母、桂昌院の命令で興福寺から分離独立し、桂昌院の帰依もあって「女人高野」の地位が確立したのです。高野山は女人禁制でしたから、女の人は高野山の代わりにここへ参詣したのでした。
室生寺山門
築地塀に沿って歩いて仁王門をくぐって左に折れると鎧坂という石段です。室生寺金堂鎧坂石段

息を切らさないように登りましょう。
この写真は、土門拳という写真家がちょうどその頃写真集『室生寺』という素晴らしい本を出版していましたので、それをお借りしました。ワタクシの写した中にも殆ど同じ構図(ここではこれ以外の構図はありませんです)がありますが、当時のワタクシの感動をも含めて土門先生の写真をお借り致しました。


登り切った所が金堂です。
室生寺金堂

こちらが金堂。


室生寺金堂内部諸尊
左が金堂内部の諸尊。
須弥壇正面ひときわ背の高いのが釋迦如來立像、向かって右に藥師如來立像・地蔵部册立像。左には文殊菩薩と十一面觀音が並び、その前方に十二神将が一列に並んでいる。
なかなか素晴らしい。

佛像全部をしっかりのせておきたいのだがそうもいかないので、十一面觀音とそのの頭部だけを載せておきます。
室生寺十一面観音立像
室生寺十一面観音横顔

ふっくらとした顔、唇に残る朱色が美しい。


右、一回目の時の金堂を五重塔へ行く途中から写した写真。室生寺金堂白黒

その頃のワタクシの仕事は、泉川教授の実験の補助のようなのがメインだったのだが、適当にサボって、写真現像用の暗室に籠もってこの写真を四切という大きなサイズで引延ばしをやって、ウマクイッタと記念すべき一枚。
この場所からさらに石段を登りつめれば五重塔があるのです。
金堂と五重塔が室生寺では最古の建物で、奈良時代末期から平安時代初期の建築。

たくさんの石段を登って五重塔へ行きます。
室生寺五重塔台風の被害
平成10年9月、台風7号が襲ってきて、高さ50mの大杉が倒れてこの塔を直撃しました。
優美な檜皮葺の塔は無惨な姿になったのだが、この檜皮葺の弱さがかえって衝撃を吸収して、塔の心柱は歪むことなく立っていたのでした。室生寺五重塔下から
また、室生山には当時そろそろ確保が難しくなってきたヒノキが豊富にあったので、1200年を経た創建当時の古材に新材を補充して再び美しい姿になりました。





右、下から見た五重の塔。



室生寺五重塔上から

左、上からの五重の塔。

修理後の五重の塔です。
高さは16.2mと、野外に建っている五重塔としては最小のものです。でも古来多くの人がその姿の美しさを讃えてきました。だからこの塔が傷んだとき多くの人たちからの寄進が集まり、1年9ヶ月という短期間で修復出来たのでした。


…奥の院寺より山中八丁登る、堂一宇南向、是大師堂也。脇に自然石の羅漢あり、石の五重塔を立てたる下に大師護摩の岩屋あり。…
室生寺奥の院参道
五重塔の脇からさらに奥へ右のような道を辿って入ると奥の院になります。室生寺奥の院参道石佛

賽の河原とか無明谷、覗き、などといった難所を越えると弘法大師御影堂、いわゆる奥の院があるのです。


…夫より下りて川上五丁に善女龍王の宮あり、夫より五丁山中へ上り龍穴と云ふがあり、谷川の向ふの岩穴なれば川越し故に行かれず、岸の此方より拝す。又三丁計り上に天照大神御出現石とて大石二つあり、其間に穴あり。夫より門前に歸り宿す。

室生龍穴神社

一旦室生寺を出て、室生川に沿って1kmほど遡ると龍穴神社というのがあります。
ここは弘仁八年(817)が最初で朝廷による雨乞いが行われていました。
室生龍穴

右が神社の後ろにある龍穴という穴。
瀧があったりして直接にはここへ行けないので泉光院は対岸から拝んだ。
ここに住む善女龍王というのは降雨を司る水の女神なんだそうです。


室生龍穴付近の瀧
左、龍穴付近の瀧。
このあたりは多雨地帯であり、室生火山帯に属しているので、このような洞穴があったり、雨乞い信仰があったりするのでしょう


室生天の岩戸の磐

右が天照大神御出現の天の岩戸で、この二つの大石の間から御出現になった、と伝えられているのです。
文明開化の現在ではこのような伝承も殆ど忘れ去られているのですが、江戸時代にはさまざまな伝承が人々の間に伝えられていたのでした。

ところで泉光院は、室生寺門前で泊めてもらった家の奥さんが臨月なので、奥州鹽釜神社で貰ってきた安産御札を渡していますね。ほかでも泊めてもらった家の奥さんが臨月やそれに近いときは渡しているので随分たくさん貰ってきたようです。
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